FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会は7月8日、アメリカ優勝で閉幕。欧州勢の躍進が目立った大会であったが、代表選手23名全員が世界最高峰の女子サッカープロリーグNWSLでプレーしているアメリカの強さが際立った大会でもあった。
アメリカが「強さを維持できる秘密」については前回の得点・失点編の冒頭で紹介。前回に引き続き、FIFA女子W杯2019で活躍したTop13代表チーム同士の試合結果を分析し五輪やW杯における勝利への道を探ってみます。第2弾は年齢・経験値にフォーカスした分析結果を紹介。
なお、第1弾と第3弾はこちら!
- FIFA女子W杯2019:試合結果分析で勝利への道(得点・失点編)
- FIFA女子W杯2019:試合結果分析で勝利への道(ボール支配率・メンタル編)
- ベテランはどうして活躍できるの?
- 勝利に欠かせない要素
- Top13チームの経験者・平均年齢・ベテラン
- ベスト4になったチームの平均年齢や経験値は高い
- 成績が期待値を下回ったチームのスタメン平均年齢は若い
- ランキング下位チームが上位チームに勝利したのは何故?
- まとめ
ベテランはどうして活躍できるの?
スポーツにおいても年齢や経験の重要性は何となく分かっている。私もそのなんとなくの一人である。そこで「どうしてベテランが活躍できるのか」、調べてみた。ある記事の説明を要約すると概ね次の通り。
「スポーツは体でするもの」と言われているが、外見上はその通り。しかし、実際に体を動かしているのは脳である。言い方を変えれば、「運動は体でなく脳でするもの」。筋肉や骨といった部位は局面での的確な判断とプレーを記憶することはできない。多くの経験や反復練習を通して脳にプログラミングされている情報が多いほど無意識のうちに素晴らしいプレーができる。
なるほど、ベテランの活躍理由が分かりました。
勝利に欠かせない要素
ワールドカップは世界一を決める大会で育成レベルの大会とは違う。勝利が目的の大会だ。4年に1度の真剣勝負の大舞台である。勝利に必要な要素は沢山あると思うが、次の点に絞って今回のFIFA女子ワールドカップ2019で活躍したTop13代表国同士の試合結果を分析。
- 決定率・得点率・失点率(前回)
- 平均年齢・経験者数(今回)
- ボール支配率(次回)
Top13チームの経験者・平均年齢・ベテラン
Top13チーム同士での対戦に限定、且つ、用語は次の通りに定義。
- 経験者:五輪・W杯プレー経験者(ベンチ入り含まず)
- ベテラン:代表歴100試合(ベンチ入り含む)以上
- スタメン:最終戦のスタメン(フランスの最終戦はアメリカ戦)
ベスト4になったチームの平均年齢や経験値は高い
ベスト4になったチームでオランダは例外的に若いチームだが、大舞台(前回W杯)での経験者は多い。
スタメン平均年齢が高い順と成績がほぼ一致している
- 1位 ブラジル(中堅・若手が育っていない。常にベテラン頼み)
- 2位 アメリカ(優勝)
- 3位 スウェーデン(3位)
- 4位 フランス(アメリカ戦ではベテランを全員起用。一歩及ばず)
- 5位 イングランド(4位)
成績が期待値を下回ったチームのスタメン平均年齢は若い
- 1位 日本(ベスト16)
- 2位 オーストラリア(ベスト16)
- 3位 スペイン(ベスト16)
- 4位 ドイツ(ベスト8)
チーム名赤色はベスト4、チーム名緑色はベスト8
チーム |
チーム |
スタメン |
|||
経験 者 |
平均年齢 |
ベテラン |
年齢 |
ベテラン |
|
日本 |
6 |
24.0 |
4 |
24.7 |
2 |
アメリカ |
14 |
28.6 |
7 |
28.8 |
5 |
オランダ |
12 |
25.5 |
3 |
26.1 |
2 |
スウェーデン |
11 |
26.6 |
6 |
28.6 |
6 |
イングランド |
9 |
27.1 |
3 |
27.6 |
2 |
カナダ |
14 |
24.7 |
3 |
27.2 |
3 |
オーストラリア |
17 |
25.3 |
3 |
25.1 |
1 |
ブラジル |
14 |
27.5 |
3 |
29.9 |
3 |
フランス |
10 |
26.3 |
5 |
28.1 |
5 |
ドイツ |
8 |
25.4 |
1 |
25.3 |
0 |
スペイン |
8 |
24.7 |
0 |
25.1 |
0 |
イタリア |
0 |
27.3 |
0 |
25.8 |
0 |
ノルウェー |
7 |
25.3 |
4 |
26.7 |
3 |
ランキング下位チームが上位チームに勝利したのは何故?
ここではTop13チーム同士の21試合の中でランキング下位チームが勝利した試合のデータを見て平均年齢やベテランの人数と試合結果の関連性を4試合分析(全部で5試合あったが1試合はランク差1の日本対オランダ)。
用語の定義
- ベテラン:代表歴100試合(以上ベンチ入り含む)
- Cap数:代表試合数(ベンチ入り含む)
① イングランド 1-2 スウェーデン(3位決定戦)
寸評
スウェーデンはこの試合に限らずベテランを多用したのでスタメンの平均年齢や平均Cap数はチーム平均を大幅に上回っている。攻撃力・守備力の分析では分からなかったが第3位になった理由はここにありそうだ。
|
イングランド |
スウェーデン |
FIFAランキング |
3 |
9 |
チーム平均年齢 |
27.1 |
26.6 |
先発平均年齢 |
27.6 |
28.6 |
チーム平均Cap数 |
45.5 |
56.2 |
先発平均Cap数 |
53.0 |
93.1 |
ベテラン数 |
3 |
6 |
先発ベテラン |
2 |
6 |
② ドイツ 1-2 スウェーデン(ベスト8)
寸評
ドイツを破るという番狂わせを成し遂げたスウェーデンはここでもベテランが「脳力勝負」で活躍。脳力=積み上げた経験
なお、この試合の経験値に関わるデータをまとめてみた。
|
ドイツ |
スウェーデン |
FIFAランキング |
2 |
9 |
チーム平均年齢 |
25.4 |
26.6 |
先発平均年齢 |
25.3 |
29.0 |
チーム平均Cap数 |
35.1 |
56.2 |
先発平均Cap数 |
34.1 |
98.0 |
ベテラン数 |
1 |
6 |
先発ベテラン |
0 |
6 |
③ スウェーデン 1-0 カナダ(ラウンド16)
寸評
得点・失点編で紹介した通り、カナダの攻撃力があまりにも低かったためスウェーデンの勝利につながったのでしょう。
|
スウェーデン |
カナダ |
FIFAランキング |
9 |
5 |
チーム平均年齢 |
26.6 |
24.7 |
先発平均年齢 |
29.0 |
27.2 |
チーム平均Cap数 |
56.2 |
3 |
先発平均Cap数 |
98.0 |
102 |
ベテラン数 |
6 |
3 |
先発ベテラン |
6 |
3 |
④ ノルウェー 1-1(PK 4-1) オーストラリア(ラウンド16)
寸評
ノルウェーが先発平均年齢やベテラン数で優位だが、オーストラリアの敗因はメンタル的なもの(2月の監督解任劇と女子指導未経験の臨時監督就任)
|
ノルウェー |
オーストラリア |
FIFAランキング |
12 |
6 |
チーム平均年齢 |
25.3 |
25.3 |
先発平均年齢 |
26.7 |
25.1 |
チーム平均Cap数 |
45.8 |
53.5 |
先発平均Cap数 |
66.5 |
68.5 |
ベテラン数 |
4 |
3 |
先発ベテラン |
3 |
1 |
まとめ
「勝利への道を探る」、その第2弾としてFIFA女子ワールドカップでのトップ13チーム同士の試合におけるスタメンの平均年齢・ベテラン・Cap数にフォーカスして分析した結果を紹介。
チームの平均年齢やベテラン選手数は広義に於いてチームの出来と密接な関係がある。ベテランはいろいろな経験値が脳にプログラミングされているので局面で適切な予測と瞬時の判断ができる。逆に経験値が乏しければ考え込んでしまい一瞬の遅れでシュートチャンスを逃したり振り切られたりする確率が高くなる。
FIFA女子ワールドカップでも明らかになった点は、ドイツ、日本にようにスタメン平均年齢が低くベテランが少ないチームはよい成績を残せなかったこと。逆に、アメリカやスウェーデンのようにスタメン平均年齢が高くベテランが多いチームは良い成績を残せたこと。
さらにランキング下位チームが上位チームと対戦したデータをチェックしてみた。結果は上位チームの8勝5敗。まあ、そんなものだろうと思うが、8勝の内4勝はアメリカが稼いだもの。アメリカを除外すればどっちが勝つか分からないのが実態。
上記の5敗の内、日本対オランダを除いた試合結果を分析。4試合の内3試合はスウェーデンが関係している。スウェーデンのスタメン平均年齢・ベテラン数・Cap数はカナダを除いて上位チームを圧倒している。
今W杯でスタメン平均年齢・ベテラン・Cap数が試合結果に大きく影響した点をただの偶然として片づけられない。真摯に受け入れるべきでしょう。
JFAは東京五輪で男女ともメダル獲得を目標にしている。本当にそのつもりなら女子のメンバー選考は見直すべきである。せいぜい2~3人のベテランを入れるだけでメダル獲得の可能性は大きく膨らむだろう。
いかがでしたか? 次は「ボール支配率と勝利の因果関係」を深く分析し勝利への道を探りますのでよろしくお願いします。