FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会は7月8日、アメリカ優勝で閉幕。欧州勢の躍進が目立った大会であったが、代表選手23名全員が世界最高峰の女子サッカープロリーグNWSLでプレーしているアメリカの強さは際立っていた。
NWSLでは海外から代表・代表レベルの選手約70名がプレーしている。日本からは、永里優季、川澄奈穂美、宇津木瑠美。9チームあるがアメリカ代表選手を加えると1チーム平均の代表・代表レベル選手数は10名ほど。どのチームがW杯に出場してもベスト16に残るだろう。そういうレベルのチーム同士が年間24試合を戦っている。強さを維持できる秘密はチーム内の熾烈な競争とハイレベル同士のチームの戦いである。
それに比べると欧州勢が躍進したと言ってもチーム間のレベルの差が大きすぎる。なでしこリーグでも1強9弱と言っても過言ではない。
フランスで言えば2強がリヨンとサンジェルマン。高いレベルの試合はUEFA女子チャンピオンズリーグくらい。
そうした点を踏まえて考えると、アメリカから女王の座を奪い取るような代表チームがヨーロッパから出てくるのは当分先になりそうだ。
この記事では今W杯で活躍したTop13代表チーム同士の試合結果などを分析して五輪やW杯における勝利への道を探ってみたい。一回目は得点・失点にフォーカスした分析結果を紹介したい。
なお、第2弾・第3弾はこちら!
勝利に欠かせない6つの要素
ワールドカップは世界一を決める大会で育成レベルの大会とは違う。勝利が目的の大会だ。勝利に必要な要素は沢山あると思うが、次の点に絞って今回のFIFA女子ワールドカップ2019で活躍したTop13代表国同士の試合結果を分析。
- 得点率(決定率)・失点率(今回)
- 平均年齢・経験者数(次回)
- ボール支配率・メンタル(次々回)
決定率・得点率
この分析における用語は下記の通り定義。
- 枠内S率:1試合平均の枠内シュート本数。キーパーが触らなければ1点に繋がるのが枠内シュート。多ければ多いほどゴールチャンスがあったという事になる。一方、枠外シュートが多い場合は攻めていたと言えるが、攻めさせられていたとも言える。全21試合での1試合平均枠内シュートは約9本。チーム当たりでは4.5本
- 決定率:1本の枠内シュートでの得点(PK込み)率(%)。2~3本の枠内シュートでゴールを決められれば決定率はかなり高いと言える。両チーム合わせて52得点している。枠内シュートは188本。平均決定率は28%。逆に言えば、3.6本の枠内シュートで1得点
- 得点:1試合平均得点。21試合で両チーム合わせて52得点。1試合当たり2.5点。チーム当たりでは1.25得点
攻撃力がなくてもベスト8になれる
赤は平均よりかなり劣り、緑は平均よりかなり優れてる数字。
- 日本、スペイン、ドイツ、カナダは対象試合が2試合しかないのであまり参考にはならないが、特徴は掴める
- ノルウェーは運よくオーストラリアを破ってベスト8になったが、攻撃力は高くない。イタリアやスペインほぼ同じ
- 日本の枠内シュート本数は悪くないが決定率%が12%で悪すぎる
- 一方、アメリカやイングランドは攻撃力全般において良い数値を披露
- ところが、攻撃面だけでは準優勝のオランダと3位のスウェーデンの活躍の理由が見えてこない
(青字はベスト8以上)
|
ラ ン ク |
試 合 数 |
得 点 |
枠 内 シ ュ | ト |
枠 内 S 率 |
決 定 率 % |
得 点
|
スペイン |
13 |
2 |
1 |
3 |
1.5 |
33 |
0.5 |
フランス |
4 |
3 |
5 |
14 |
4.7 |
36 |
1.7 |
ノルウェー |
12 |
3 |
2 |
13 |
4.3 |
15 |
0.7 |
ドイツ |
2 |
2 |
2 |
13 |
6.5 |
15 |
1.0 |
オーストラリア |
6 |
3 |
5 |
18 |
6.0 |
28 |
1.7 |
イタリア |
15 |
3 |
2 |
11 |
3.7 |
18 |
0.7 |
ブラジル |
10 |
3 |
4 |
14 |
4.7 |
28 |
1.3 |
イングランド |
3 |
4 |
7 |
20 |
5.0 |
35 |
1.8 |
日本 |
7 |
2 |
1 |
8 |
4.0 |
12 |
0.5 |
カナダ |
5 |
2 |
1 |
3 |
1.5 |
33 |
0.5 |
オランダ |
8 |
5 |
7 |
22 |
4.4 |
32 |
1.4 |
アメリカ |
1 |
5 |
10 |
28 |
5.6 |
36 |
2.0 |
スウェーデン |
9 |
5 |
5 |
21 |
4.2 |
24 |
1.0 |
失点率
この分析における用語は下記の通り定義。
- 枠内被S率:1試合枠内被シュート本数。キーパーが触らなければ失点に繋がるのが枠内被シュート。少なければすくないほどゴールチャンスを与えなかった事になる。一方、被枠外シュートが多い場合は攻め込まれたと言える、攻めさせていたとも言える。1試合当たりの平均被枠内シュートは約8.6本ですので、チーム当たりでは4.3本
- 失点率:1本の被枠内シュートからの失点(PK含む)率(%)。このTop13チーム同士の合計21試合の1試合被枠内シュートは180本。失点は52点。平均失点率%は29%。逆に言えば、3.4本の被枠内シュートで1失点
- 失点:1試合平均失点。21試合で両チーム合わせて52失点。1試合当たり2.5点。チーム当たりでは1.25失点
ベスト4になるには守備力が必須
赤は平均よりかなり劣り、緑は平均よりかなり優れている数字。
- ノルウェーは運よくオーストラリアを破ってベスト8。実は守備力もいいとは言えない。日本の守備力もよくない
- 一方、アメリカをはじめベスト4に残ったチームの守備力は優れている
- オランダの被シュート本数は多いが23本中10本はアメリカ戦
- 失点率が低いという事はGKが良かったとも言える
- イングランドは守備も攻撃も高かったが準決勝でアメリカに負けて3位決定戦までに精神的に立ち直れなかったのでしょう
- オランダの攻撃力はもう一つであったが守備力はかなり高い。準優勝の秘密はここにありそうだ
- ただ、スウェーデンの第3位の理由がまだ見えない(次回以降をお楽しみに)
|
ラ ン ク |
試 合 数 |
失 点 |
枠 内 被 シ ュ | ト |
枠 内 被 S 率 |
失 点 率 % |
失 点
|
スペイン |
13 |
2 |
3 |
9 |
4.5 |
33 |
1.5 |
フランス |
4 |
3 |
4 |
17 |
5.7 |
24 |
1.3 |
ノルウェー |
12 |
3 |
6 |
16 |
5.3 |
38 |
2.0 |
ドイツ |
2 |
2 |
2 |
8 |
4.0 |
25 |
1.0 |
オーストラリア |
6 |
3 |
5 |
10 |
3.3 |
50 |
1.7 |
イタリア |
15 |
3 |
4 |
17 |
5.7 |
24 |
1.3 |
ブラジル |
10 |
3 |
5 |
12 |
4.0 |
42 |
1.7 |
イングランド |
3 |
4 |
4 |
19 |
4.8 |
21 |
1.0 |
日本 |
7 |
2 |
4 |
11 |
5.5 |
36 |
2.0 |
カナダ |
5 |
2 |
3 |
5 |
2.5 |
60 |
1.5 |
オランダ |
8 |
5 |
4 |
23 |
4.6 |
17 |
0.8 |
アメリカ |
1 |
5 |
3 |
13 |
2.6 |
23 |
0.6 |
スウェーデン |
9 |
5 |
5 |
20 |
4.0 |
25 |
1.0 |
まとめ
サッカーでは得点しないと勝てないが、得点と同じくらい重要なのがいかに失点を防ぐか。特に力の拮抗したチームとの対戦では勝利には高い守備力は必須。「守備力はまあまあだが攻撃力は高い」では勝てない。
失点しなければワンチャンスをモノにできれば勝てる。GK、DFはもちろんチーム全体で局面に応じた守備戦術を実践できれば勝利への近道。
- リードしている場合
- リードされている場合
- 同点ないしは0-0の場合
アメリカのようにリードしたら5バックにスイッチするのも一つのオプションですね!決勝戦でオランダが2点リードされた後にDFを削って攻撃陣を増やしたが攻勢に転じるどころかカウンターに遭いGKの好セーブがなければさらに失点してもおかしくない局面が続いた。
普段の国際親善試合などでいろんな状況を想定してチームとして攻撃力と守備力のパターンを磨き上げることが何より重要と分かりました。強豪国はそのようなテストを親善試合で試しているのかもかもしれない。
SheBelievesカップ、イングランド対日本、いわゆるW杯前哨戦、イングランドは前半を3-0で折り返した。後半に入ると日本が圧倒的に攻め立てた。しかし1点も取れませんでした。この試合で高倉監督は「メンバーを代えると、ボールがよくつながった。シュートまで持っていき、改善を図れたと思う」とコメントしている。私はこの試合の寸評を次のように書いた。
- イングランドは後半守備練習をしたのでは?
- W杯に備えて日本の攻撃パターンを見たかったので敢えて攻撃させたのでは?
次は平均年齢と大舞台での経験値などの観点から試合結果を分析し勝利への道を探りますのでよろしくお願いします。