- 何が足りなかったか?の質問に・・・
- 敗因の真相は「これまでと違うやり方で世界一に挑戦」
- 戦術と強みの軽視でなでしこジャパンは弱体化
- 2011FIFA女子W杯決勝戦をみて違いをチェック
- 選手やOBは敗戦をどう受け止めたか?
- 選考基準や新監督などについて
はじめに
なでしこジャパンは東京五輪女子サッカー準々決勝でスウェーデンに3-1の敗戦で夢の舞台を去った。マスコミ、ワールドカップ優勝メンバー、識者、そして多くのサッカーファンが敗因を語っている。どれも正解だと思う。
例えば、監督の資質(不可解な采配・戦術・選考・起用・選手交替への疑問)、コロナ禍で強豪国との強化試合不足、選手の資質(実力・貪欲さ・使命感・責任感・闘争心・経験値・メンタリティ)や人材不足などいろいろ語られている。
それでは、選手やOBの声とW杯優勝チームとの違いを紹介しながら「なでしこジャパンの敗因」を深掘りして私の考えを皆さんとシェアしたい。
何が足りなかったか?の質問に・・・
なでしこジャパンの敗退でもっとも納得した点は、今大会の誤算について記者から「何が足りなかったか?」と問われると、監督が「足りなかったことはいま……。自分の中で整理して答えるのは難しいです」と答えた点。
私はこの返答に「驚いた」あるいは「あきれた」と言うよりも「やっぱりそうだったんだ」と思った。SheBelievesカップなど強豪国との対戦で同じ過ちを繰り返していたので「おかしいな」と思っていたが、なるほど、「明確な戦術を持っていなかった」ので返答しようがなかったと理解。
さらに「世界中の女子サッカーの急速な進歩で日本はついて行けなかった」、「選手の創造性や技術が思うように伸びなかったので負けた」と敗因を選手のせいにしている。
敗因の真相は「これまでと違うやり方で世界一に挑戦」
南アと親善試合前の西日本スポーツの単独インタビュー(2019/10/30)に「戦術に縛られず、個人の創造性や技術を重んじている。今は欧州も米国もシステマチックで、速いFWを前線に3人置いて4-3-3の布陣にして1対1やクロスで勝負させることが多い。私は規律を求めすぎて、選手の個性をつぶすのがすごく嫌。何かをやっちゃだめとは言わない。選択するのは選手だから」と答えている。
さらに「当時(2011年)は日本が新しいサッカーの流れをもたらした。世界の多くのチームがやっているものとは違うやり方でもう一度世界一になるのが、私たちの挑戦だと思う」と話している。
ポイントは「違うやり方」、これに固執し過ぎた。本人も「2011ワールドカップ優勝は奇跡」と言っているくらいだから、当時のハードワークや泥臭いプレーなど、なでしこらしさを継続する意思はなかった。
むしろ「当時のなでしこジャパンの戦術に縛られず、個人の創造性や技術を重んじる独自の采配」で世界一に挑戦した。このインタビュー記事を読んで、どうして不甲斐ない采配が続くのか、どうして(チームとしての)成長が見られないのか、どうして不可解な選手選考を続けるのか、全ての疑問が解けた。
戦術と強みの軽視でなでしこジャパンは弱体化
強み(ハードワーク・チームワーク)軽視でチーム力ダウン
「2011W杯後の欧米チームの急速な成長でなでしこジャパンは後れをとった」という話をよく耳にするが、正しい面もあるだろう。
しかし、私からしたら、なでしこジャパンの弱体化の原因の一つは、強み(ハードワーク・チームワーク)の軽視(やればできるのに残念)。
東京五輪スウェーデン戦を見てもスライディング回数、チームワーク(意志疎通・共通理解・カバリング・献身性)、ハードワーク(素早い戻り・連動した攻守・素早い切り替え・プレッシング・粘りなど)など一部の選手を除いて物足りなかった。
他の選手ができなかったのではなく、個人の創造性や技術を重視する監督がチームワークやハードワークは求めなかったからだ。そのような監督のもとでチーム力が低下するの当たり前だ。
違うやり方を実践するため、なでしこジャパンの強みの遺伝子にもつ戦士を減らしていったことがメンタル面を含めて大きな戦力ダウンとなった。
戦術軽視でチーム力ダウン
明確な戦術を持たないため、何度も露見したチームの課題(強豪国に対する前半の失点、失点すると逆転できないなど)解消に取り組むことはしなかった。
明確な戦術がないので、いくら強化試合を組んだところで個の成長はあってもチームの成長はない。そのため体格やスピードに勝る欧米チームに対抗する戦術は個人任せでチームとしては持ち合わせなかった。
その結果が、なでしこジャパン東京五輪グループ・ステージでの苦戦と準々決勝敗退。必然だったと言えよう。
東京五輪の総括は、2019年W杯で総括した課題と東京五輪に向けての対策とほぼ同様になりました(残念ながらJFAによる2019年W杯を総括資料が見つからなかった)。
2011FIFA女子W杯決勝戦をみて違いをチェック
現なでしこジャパンとの違い(チームワーク・ハードワーク)を実感するため2011FIFA女子ワールドカップの決勝戦(アメリカ)と準決勝戦(ドイツ)のビデオを見た。
2011W杯なでしこジャパンのハイライトビデをはこちら!
当時のなでしこジャパンの戦い方は最近の欧米チームによく似ている。ただ、なでしこの強み言われているパスワークは決勝戦ではほとんど見られなかった。
確かに体格やスピードで負ける局面もあったが、それを補って余りあるほどの「強い意志」が感じられた。だからデュエルの局面でもスピードでもほぼ互角の戦いを演じた。
もっとも顕著な違いはバックラインからの早いタイミングでの前線へのロングフィードが多いこと。決して現在見られるセーフティ第一のパスワークで相手を崩そうとしたわけではない。
パスワークはアメリカ戦よりもドイツ戦で多かったが、パスをつないでビルドアップするシーンは意外と少なく、たいていは攻撃の起点を作る為か、相手のプレッシャーをはねのける為の自陣でのパスワーク。
典型的なプレーとしては、フリーでボールを持ったら最前線の味方へロングフィード。相手DFにクリアーされたら2ndボールを拾う為、2列目の選手が突っ込む。拾ったら最小限のパスでFWにパス。そしてすぐにシュートに持ち込む。
仮にクリアーされたボールを拾えなくても、ボールを持った相手選手にプレスを掛けボールを奪いにいく。クロスやシュートしようとする選手には必ずと言っていいくらい(寄せきれない時)スライディングしている。
とにかくよく走りまわりロングフィードを多用し手数を掛けずにゴールを狙う(これが当時の戦術かも)シーンが目についた。こうして一進一退の死闘が展開された。
東京五輪の戦いと比べたら、現在のなでしこジャパンは2011年当時のなでしこジャパン戦士の運動量、スピード(走るスピードだけじゃない。パス・判断・切り替え)、ハードワークには到底及ばない感じがした。
選手やOBは敗戦をどう受け止めたか?
2011FIFA女子ワールドカップ優勝メンバーなどの東京五輪敗戦ごコメントを聞けば、当時のなでしこジャパンの「強み」のキーワードが分かる。
岩渕選手
「日本のサッカーはうまいという部分はあるかもしれない。けど、もっと戦う部分やゴールに貪欲にいかなければいけない部分の差は、やっぱりあると思う。本当に日本のために頑張りたいと思うのと、今後そういう貪欲な選手がもっと出てきたらいいと思う」
「結局ボールを持っているだけではゴールが取れない。どこかで仕掛けなければいけない、どこかでチャンスを狙わなければいけない部分に関しては、本当に海外にいるからこそ思いますけど、外国人の選手って本当に貪欲なので。どこかでミスを恐れて…というのが日本人の悪いところかなと思うので、その部分は悔しいし、変えなければいけなかったですけど、変えられなかった部分かなと思います」
どうして変えられなかったのだろう?選手はみんなわかっていると思う。名前は出していないがおそらく選手の個性をつぶすのがすごく嫌いな監督の意向?
澤穂希
(イギリス戦後)
「どれだけの選手が体を張っていたか。失点してしまったシーンも、声が出ていたのかどうか。スライディングをしていたか。すごく疑問に思います」
「1点負けていた状況で、誰が声をかけて押し上げて前から守備にガンガンいくか。そういうシーンが全くみれなかった。この試合に賭けているのか、全く伝わらなかった。セカンドボールも球際も、強さがみれなかった」
(1次リーグ突破後)
「個人的には、もっと泥臭さ、がむしゃらさをみたい。足を出して、スライディングをして、かわされたらまた立ってスライディングして。みんなうまいのはわかっているので、がむしゃら感、ひたむき感をもっと見たいです」
「佐々木則夫監督(当時)は、試合前のウォーミングアップで全員にスライディングをさせ、ソックスを汚れさせた状態でプレーさせる工夫をしていた」
澤氏が初めて具体的に問題点を指摘した。これまで立場上こうした発言は控えていた。感情が抑えきれなかったからではなく、誰かがこうした発言を許可したのでしょう。それを知った他のOBもどんどん発言しましたね。その一部を紹介しましょう。
丸山桂里奈
「私なんて、W杯や五輪で澤(穂希)さんに“途中から入って動けないのはありえない”とか何回も怒られました。ノリさん(佐々木則夫監督)にも“途中で出た選手が勝負を決めろ”、”全員抜いてこい“と言われて、その気持ちがないならピッチに入るなという気持ちで入っていた。途中で出てるんだから思い切りプレーして、ゴールを奪うために燃えなきゃダメですよ」
永里亜紗乃
「・・・精神論はあまり語りたくありません。でも必死さ、ガムシャラさ、勝利への執念がなければ技術や戦術がどれだけ優れていても勝てないし、見ている側の人の心も動きません。うまいだけ、キレイなだけ、カッコ良くやるだけでなく、いかに泥臭く戦って120%の力を出し切れるか。それが、なでしこジャパンの命運を握っています」
選考基準や新監督などについて
選手選考基準を明確化
永里選手や田中選手の2019W杯落選など選手選考は極めて不可解だった。しかもW杯では強豪国では異例の若手中心の選考だった。ただ、こうしたのは東京五輪や次のW杯に向けて最強チームを作り上げる長期計画に沿った選手選考としてポジティブに捉えた。
しかし、2019W杯はベスト16で敗退したので自国開催の東京五輪でのメダル獲得は若手主体では無理だろうと思い、自分なりに必要なメンバーなどを考察し改善点をリストアップ。
ところが、W杯の反省どころか、意地でもなでしこ優勝メンバーの手は借りたくないので鮫島選手や阪口選手など、なでしこ戦士は東京五輪メンバーから外れた。
性格に会わない?優勝メンバーが排除され、その結果、なでしこ戦士の遺伝子がチームは勿論、個のレベルでも引き継がれることはなかった。
選手選考にあたり2つ要望がある。
① 選考基準にハードワーク・チームワークを加える
② なでしこ代表候補には2011FIFA女子ワールドカップ決勝戦のビデオを見せる。そして感じたこと・目標などを発表させる。このペーパーテストで戦士としての適性などをチェック
明確なチーム戦術はもちろんだが、強化試合を通して戦士としてハードワーク・チームワークのでき具合をチェック。不合格した選手にはその理由を明確に伝え、再チャレンジのドアを開けておく。
新監督
監督の交代が噂されているが、願わくはワールドカップ優勝メンバーから選んで欲しい。きっと当時のチームの遺伝子を引き継ぎ、よりアグレッシブでよりタフなチームになるでしょう(代表チームの厳しさについていけない選手がたくさん出るかも?)。
WEリーグとなでしこジャパンのレベルアップに期待
なでしこジャパンの選考基準が明確になればWEリーグのレベルアップが期待できる。なでしこジャパンメンバーは若い。一方、欧米チームは世代交代に苦労するはず。2023年のワールドカップでの優勝の可能性はかなり高くなるでしょう。
因みに、USAは2021年11月から世代交代、順調なスタートを切った。
おわりに
明確なチーム戦術を敢えて持たずにハードワーク・チームワークというなでしこジャパンの最大の強みを軽視したことが、東京五輪準々決勝敗退の大きな理由と推察。
監督は「選手の創造性や技術が思うように伸びなかった」と語ったが、この計算違い(個人の成長で欧米チームに勝てる)は許されることではない。
もっと酷評するが、なでしこジャパンの勝利よりも自身の勝利(”違うやり方での世界一”から得られる名誉)を優先してしまった。それを知っていいながら?W杯で沸騰した解任論を見過ごしたJFAにも大きな責任がありますね。
いかがでしたか? 2023年W杯に向けては、なでしこジャパンの強みを熟知しているW杯優勝戦士に指揮をとって欲しいと願っています。また、監督に恵まれなかったなでしこジャパンのメンバーは不憫でならないが、WEリーグ発展の為、更なる成長の為、次のW杯を目指して所属クラブで頑張ってほしい。
なお、女子サッカーリーグとクラブの世界ランキングに関してはこちらをどうぞ!